2020S 国内法と国際法 2
2020-06-17
この回、結局は、
ブラウン管事件だけで終わってしまったので、
「国内法と国際法」そのものについてはこのページ末尾にまとめています。↓ ジャンプするリンク ↓
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予習資料
ブラウン管事件
必須.iconブラウン管事件の説明(白石忠志)(先週と共通)
必須.icon東京高裁判決(MT親会社・子会社)
38-39頁のみでよい
必須.icon最高裁判決(サムスン子会社)
裁判所サイト
個別の事例への直リンクができない仕様のようなので、
「裁判例情報」で次のものを見つけてください。
最判平成29年12月12日・平成28年(行ヒ)第233号
判決理由第2のみでよい
授業では、「ブラウン管事件の事案は日本独禁法に違反するか」の争点のみに注目して、MT東京高裁判決と、サムスン子会社最高裁判決とを、比較します。
ブラウン管事件の問題に相当する国際法の概説書の記述
必須.icon岩沢雄司『国際法』東京大学出版会、2020年 の174〜185頁
ITC-LMSとSlackで配布
国際法に関心があれば、この本は買っておいたほうがよいでしょう。配布PDFの末尾に著者紹介あり。
参考:教養学部報
質問・感想をSlack等でお知らせください。16日(火)12:30頃までにいただけると、授業準備に活かしやすく、更に助かります。
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ブラウン管って何?
ブラウン管事件の事案と、それまでに確立していた考え方の確認
自分と議論との関わり
自分と本件との関わり
https://gyazo.com/fc687d8db8da89ccb4215ba7fe54e900
最高裁判決(第1段階)
岩沢『国際法』177頁注50
いろいろな国際的相剋がある
https://gyazo.com/72a381502875a861e193658dd1724291
最高裁判決(第2段階)
複数の法域(国)による競争法の適用
X県の居酒屋での自動車部品会社のカルテル合意
ヤフーとLINEの企業結合
Q
今の二つがどうして当てはまるのかがよくわかりませんでした。また、居酒屋と自動車部品がカルテルを結ぶとはどういうことでしょうか。
同種の商品を作るA国のa社、b社、B国のc社があり、a社とb社がカルテルを行った場合、c社があるB国は自国の市場が脅かされているとして、自国の競争法をa社とb社のカルテルに適用できるのでしょうか?
先ほどの図で、韓国のAB社が合併したことで競争法が適用されることがよく理解できませんでした。
国際企業なら、形式上進出したすべての国に審査や許可を受ける必要があるのですか?異なる業種間の企業の合併の場合は、必ずしも競争を妨げないと考えられますが、こうした場合も国内・国際的な合意が必要なのですか?
ヤフージャパンとLINEの企業結合についてですが、外国の独禁法が適用できるのはLINEが外国企業だからという理由でしょうか?それとも外交も企業結合で影響を受けるからでしょうか?個人的に、この企業結合の影響は国外には及ばない気がしたのですが。
国際的な競争法を制定する機運はないんですか?国連とかで定めた一元的なものの方が簡素化する気がします
効果理論の「効果」を広義にとらえると、あらゆる出来事が国内の市場に効果を与えると考えることができる気がするのですが、それは裁判所が具体的に決定していくのでしょうか?裁判所は経済の専門家ではないので、評価に苦戦しそうなのですが
第1段階が我が国の自由競争経済秩序の侵害の場合について述べていて、第2段階が主に需要者が我が国にいるときの自由競争秩序の侵害について述べているということは、第2段階は第1段階の一例ということですか。
MTの親会社が日本に存在するのにもかかわらず、そのことが問題とされなかったのは何故なのでしょうか?
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9:35
最高裁判決(第3段階)
第3段階の論点に関する最高裁判決とMT東京高裁判決の比較
最高裁判決
https://gyazo.com/d3ffc80a3a53b489bf652905a2a0ee79
MT東京高裁判決
https://gyazo.com/71b8476a88d3da2acbf4c6b4bda0e498
「事例判決」
「良い法律論」(平井宜雄)
参考)
https://gyazo.com/3a07fbef48469205ea19ab99ec9c5963
https://gyazo.com/dbb640d21d527763d101c9d996bf76a1
https://gyazo.com/1d660ba90ffb9df457a82d18004d9995
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課題
締切:6月19日(金)朝8:00
(締切を過ぎたのでURLは削除しました。)
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Q
「排除措置」命令書という名前の割に企業を排除しているようには思えなかった。
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排除措置命令という言葉における「排除」は、誰かを排除するの排除ではなく、違反行為を排除するという意味なのです(独禁法7条)。確かに少しわかりにくいので、最近の法律では、同等のものに「措置命令」という名前を付けています(例えば景表法7条・・平成21年に公取委から消費者庁に移管した際に命令の名前も変えた)。
アジアの日本以外の国にも独禁法は存在していると思うのですが、実際に販売していた国の独禁法に引っかかることはなかったのでしょうか。
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ASEAN諸国では現在は競争法が整備されつつありますが、この事件が起きた平成10年代は、まだ競争法がないか、未発達だったところが多かったのですね。実際、本件でASEAN諸国のいずれかの競争法が適用されたということはなかったようです。中国・韓国にも競争法はありますが、やはり、本件で適用されるということはなかったようです。(私は、適用された場合のことも考えて、このような場合には自国法は控えめに適用すべき、という意見です。)
この事件はいつごろ起きたのか、という問題。最高裁判決を後から追いかける場合の宿命。
日本に本拠を置く会社だからといって、販売を行う現地の法律を守らないことは許されない、ということは、素直に理解できますが、日本に本拠を置く会社が日本以外で販売を行う際にも日本の法律は守らなければならない、ということは少し引っかかりました。日本の法律と現地の法律が対立してしまうものである場合、どうするべきなのでしょうか。また、日本の法律も現地の法律も守らなければならない場合に、日本と現地の法律に共通点が少ない時、守るべきルールが増えすぎるのではないかとも思いました。
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日本の法律と現地の法律の相剋は、重要な問題です。両者が矛盾することも、少なからず、あると思います。そのような場合の解決を考えるのも、法律家の役割です。国際関係を始めとする教養の土台がもちろん必要ですが、それらを総合して、法律家が考えていくことになります。一言で答えることが難しい、大きな問題ですので、今後、様々な分野の多様な事例で学んでいかれることになると思います。ブラウン管事件が、そのきっかけになればと思います。
(ブラウン管事件では、需要者側(いわば被害者側)が日本に本拠を置いていることに着目することになる点などにより、少し事情が違うのですが、それは来週6/17に出てきますし、また、ご質問が大事な点を突いているので、細かいことは捨象してお答えしました。)
独禁法の国際的な適用について最高裁判決も出たことだし、これを条文として明文化しようという動きはないのでしょうか。
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国際取引に適用可能であることは独禁法分野では以前から常識化しており(外国競争法がそうであるため)、今回の最高裁判決で最高裁も認めたので、具体的な規定がなくとも法解釈が確立しているからよい、ということで今後も進行する可能性が高いと思います。そういうことが常識化していない分野(例えば個人情報保護法)では、在外の事業者に適用できるかどうかが議論になり条文をおいたりしているのですが、既に広く認められている独禁法に条文を置こうとすると、最近になって議論が始まった分野(個人情報保護法など)に合わせて狭くなってしまうこともあり得るからです。(独禁法改正は政治問題化しやすいので、必要以上に触りたくないと考えられる傾向もあります。)
課徴金納付命令は、確かに企業に対する制裁効果があると思いますが、この排除措置命令は命令された企業においてどのような制裁が加わるのでしょうか。
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排除措置命令は、制裁のためではなく、是正のために行っているのですね。制裁は課徴金に任せています。また、それとは別に、違反したことを公表することによる「社会的制裁」もあります。
ブラウン管事件では、日本国内で取引が行われていなかったのに、何故公取委が価格カルテルに気づいたのでしょうか。需要者側が公取委に調査を依頼したということですか。
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中華映菅が減免申請をしたからだと考えられています。減免申請については、まずは、ご自分で調べてみてください。
独禁法の趣旨は消費者の利益を守ることにあると思っていたのですが、日本国内に流通していない商品に対しても適用することに違和感を覚えました。ここでの消費者とは、日本国内の法人を指すのでしょうか
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これは、まさに、最高裁判決まで問題となった点ですので、来週の予習資料をお読みいただくことになります。
「効果理論」の「効果」の意味がよくわかりません。
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効果理論の効果は、競争法(独禁法)の場合は、競争制限の効果、ということです。外国でカルテルが行われて、商品の価格が上がり、その効果(影響)が自国に及んだ場合には、外国のカルテルを自国の競争法で禁止できる、という考え方が効果理論です。国語辞典では、「効果」は良いものを指すという説明もあります。ここでは悪いものなので、「effects」を「効果」と訳すのはよくないかもしれません。
岩沢176頁に出てくる「主観的属地主義」「客観的属地主義」とは、何を想定して言われるようになったのでしょうか。
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単純に、「主観的」「客観的」というのは誤訳だということです。私も著者と全く同感ですが、「主体」「客体」という意味の「subjective」と「objective」を昔の日本の専門家がよく考えずに「主観」「客観」と訳してしまい、それが定着してしまっているけれど・・と言っているのです。
最高裁判決は、理論的かつ正当に適用されたものなのだと納得しましたが、個人的には少しやりすぎなのではという感が残り、国家管轄権でいう執行管轄権をやや踰越しているような気がしました。
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おっしゃる感想はよくわかるのですが、日本法違反とするかどうかは規律管轄権の問題で、違反とした上で命令を執行する(例えば課徴金を払わないので外国の土地を差し押さえる)のが許されるかどうか執行管轄権の問題です。
ブラウン管事件に適用されたのが6条ではなかったのは、なぜでしょうか。
6条「事業者は、不当な取引制限又は不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定又は国際的契約をしてはならない。」
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条文を見れば普通はそう考えますね。それが普通です。
しかし、6条は、1970年代頃まで、日本の国力が弱く、日本企業を保護主義的に外国から守る必要があると考えられていた時代の遺物なのですね。どう遺物なのかは、省略させてください。話が長くなります。どうしても必要なら私の本を買っていただくしかありません。
そうしたところ、6条を使わなくても、国際的な問題には普通の条文を内外無差別に使えばよいことが、米国等の教えに学ぶ中で、だんだん知られるようになってきました。そこで、過去の遺物でなく、普通の条文を使うようになりました。
主体的属地主義と客体的属地主義についてです。文を読むと、どちらも管轄権の根拠として認めれていることが理解できます。しかし、国際的な事件があった際に、主体的属地主義をとる国と客体的属地主義をとる国は同時に発生するわけですから、同一の犯罪で二つの国から管轄権が行使されて二重に訴追されることは普通のことなのでしょうか。
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それは普通にあり得るのだと思います。実際にどのように調整されているかは、法分野によるのだと思います。競争法でどうしているかは、授業で少しお話しします。
MT東京高裁判決の中では需要者の”意思決定者としての面”という部分が強調され、サムスン子会社最高裁判決では効果理論が用いられたというふうに、少し違いが生まれたのはどうしてでしょうか。サムスン子会社最高裁判決でもMT東京高裁判決と同じ面から攻めることはできなかったのでしょうか。
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最高裁判決は、その点について一般論を述べるのを回避して「事例判決」にしたのですね。なぜなのかは、わかりません。とにかく、おっしゃるように、一般論を述べようとした東京高裁判決と、回避した最高裁判決を見比べて、いろいろある、ということに気付いていただいて、それだけで十分です。ありがとうございました。
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国内法と国際法
時間がなくなったので、「『国内法と国際法』と『法律と憲法』」という解説を書いてITC-LMSに置きました。「2020-06-24 予習資料・前回補足」としてまとめている場所にあります。
このScrapboxページに貼り付けていた板書や引用も、そちらの解説に入れましたから、ここでは削除しました。
Q
国際法は国内法と違い法律として明文化されていない共通理念のようなものだという印象を受けたのですが、それを「法」として良いのでしょうか。
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ブラウン管事件の際に、例としてお見せした「国際法」がそのようなものだったので、もっともなご指摘ですが、
▼明文化していないルールを研究するのが重要である分野もあり、それを「法」と呼ぶかどうかは言葉の問題のようなところもあります。英米法(たぶん6/24に少し見ていただきます)のように、明文がないことを基本原則としているような「法」もあります。
▼国際法にも、例えば二国間条約や多国間条約のように、明文化されているものもあります。